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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)2351号 判決

原告 渡部幸雄

〈ほか六名〉

右原告七名訴訟代理人弁護士 内水主一

同 内水主計

被告 株式会社平和相互銀行

右代表者代表取締役 小宮山英蔵

右訴訟代理人弁護士 小林宏也

同 川瀬仁司

同 管原信夫

主文

被告は原告渡部幸雄に対し、金二〇万円およびこれに対する昭和三六年九月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告渡部幸雄のその余の請求および原告神野定市、同神野フク、同神野平喜、同神野立身、各神野奉臣、同島崎美重子の各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告渡部幸雄と被告との間においては、同原告に生じた費用の四分の一を被告の負担とし、被告に生じた費用の一〇分の一を同原告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告神野定市、同神野フク、同神野平喜、同神野立身、同神野奉臣、同島崎美重子と被告との間においては全部同原告らの負担とする。

第一項は原告渡部幸雄において金五万円の担保を供するときはかりに執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

被告は、

原告渡部幸雄に対し、金一〇〇万円、原告神野定市に対し、金一五〇万円、原告神野フク、同神野平喜、同神野立身、同神野奉臣、同島崎美重子に対し、各金五〇万円宛

および各これに対する昭和三六年九月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および第一項につき仮執行の宣言。

二  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二主張

一  請求の原因

1  別紙目録記載の土地および建物(以下本件土地建物という)は、昭和二八年一〇月二六日以降原告渡部幸雄の所有であり、原告神野定市は、同年一一月一日以降原告渡部から本件土地建物を賃借してこれを占有している。原告神野フクは、原告神野定市の妻であり、原告神野平喜、同神野立身、同神野奉臣、同島崎美重子は、いずれも原告神野定市の子である。

2  被告は、かねてから訴外武藤商事合資会社(代表社員多田羅こと手塚努)に対して金二〇〇万円を貨し付けていたところ、右手塚は、被告に対し、本件土地建物を右債務の担保とする趣旨で、本件土地建物の権利証、原告渡部の印鑑証明書、原告渡部の捺印のある根抵当権設定契約書および原告渡部名義の委任状を交付し、昭和二九年四月五日、本件土地建物につき、債権極度額を金二〇〇万円とする根抵当権設定登記がなされた。

3  しかし、原告渡部は、本件土地建物に根抵当権を設定することを承諾したことはなく、前記権利証および印鑑証明書は、原告渡部が昭和二九年三月八日前記武藤商事合資会社から金二万円を借り受けた際、同会社との間で担保の目的で本件土地建物につき買戻特約付売買契約を締結し、その登記をするために同会社に交付したものであり、また前記根抵当権設定契約書および委任状は、原告渡部が同年三月二二日同会社に対し金一万円の借増を申し入れた際、前記手塚が原告渡部との貸借に関し使用すると称して原告渡部から一時預った原告渡部の印鑑を冒用して作成したものであって、手塚は、原告渡部に無断でこれらの書類を被告に交付したのである。

4  ところで、被告は、昭和二九年一二月二三日、東京地方裁判所に本件土地建物に関する抵当権実行の申立をし、同二四日競売手続開始決定がなされた。そこで、原告渡部は、昭和三一年七月二一日付の書面で被告に対し、本件土地建物に対する根抵当権は前記手塚が原告渡部に無断で設定したものであるからその実行を中止するように申し入れたが、右競売手続はそのまま施行し、本件土地建物につき、昭和三六年六月二七日訴外松橋ミツに、本件建物につき、同年九月一九日訴外小尾寿雄にそれぞれ競落許可決定がなされ、その当時、その所有権移転登記がなされた。

5  ついで、昭和三七年一一月一日、右訴外小尾は、原告渡部、同神野定市および本件建物の間借人全員を共同被告として、所有権に基づき、本件建物明渡の訴を東京地方裁判所に提起したので、原告渡部も、同年前記訴外松橋、同小尾を被告として、競落許可決定の無効を主張して本件土地建物の所有権確認の訴を東京地方裁判所に提起したところ、被告平和相互銀行は右事件の被告側に補助参加した。右両事件は併合して審理された結果原告渡部側が全面的に勝訴し、右判決は控訴、上告審においても維持され、昭和四四年一〇月二八日確定した。

6  被告は、本件土地建物に関する根抵当権の設定につき、訴外手塚が持参した権利証および根抵当権設定者欄に原告渡部の捺印がある根抵当設定契約書のみによって、すなわち書面審査をもって原告渡部が根抵当権設定に承諾したものと認め、原告渡部に対してはこのことを確認することなくその登記を経由した。また、競売手続が開始された後においても、前述のように、原告渡部が書面をもって根抵当権の設定は手塚が原告渡部に無断でしたものである旨を通知したにも拘らず、被告はこのことを意に介せず、その真相を調査することもしないで競売手続が進行するにまかせていたものである。被告の右の過失によって、原告らは後述の損害を蒙ったのであるから、被告は原告らに対し、右損害を賠償する義務がある。

7(一)  原告渡部は、前記根抵当権の設定登記がなされたことを知った後、前記手塚に会って真相を確かめようとしたが、前記武藤商事合資会社は、昭和二九年六月営業を閉鎖していて手塚に会うことができなかった。しかも、被告は原告からの前記書面による申入れにも耳をかすことなく競売手続を維持したので、原告渡部は、右手塚の所在をつきとめて真相を究明するほかはないと考え、原告神野定市と協力して半ば生業を放棄して同人の所在の探索に努め、苦心の末ようやく同人が各地を転転としたのち、昭和三五年一〇月以降東京都港区に居住していることをつきとめた。

しかし、この間に競売手続は進行し、前述のように競落がなされ、ついで原告らに対する訴があったので、原告渡部も訴を提起し、前記手塚らの証人調べがなされた結果ようやく勝訴することができたのである。この間の長年月にわたる原告渡部の心労は筆舌につくし難いものがあり、原告渡部が蒙った精神上の苦痛に対する慰藉料額は金五〇〇万円が相当である。

(二)  原告神野定市は、競落人から前述の明渡訴訟の提起を受けたが、もしこの訴訟に敗訴するときは、家族ともども路頭に迷わざるを得なかったので、原告渡部と力を合わせて前記手塚の探索に専念し、ようやく勝訴の判決を得ることができたが、この間の長期にわたる心痛のため精神に異常を生じ、精神科専門の病院に入院して治療を受けたが病状は好転せず、昭和四四年二月五日禁治産宣告を受けるに至った。右によって蒙った原告神野定市の精神上の苦痛に対する慰藉料額は金一、〇〇〇万円が相当である。

(三)  原告神野フクは、夫である原告神野定市が精神障害のため入院生活をする破目となったために家族の生活を支えながら夫の看病をしなければならなくなった。これによって蒙った原告神野フクの精神上の苦痛に対する慰藉料額は金二〇〇万円が相当である。

(四)  原告神野平喜、同神野立身、同神野奉臣、同島崎美重子が、父である原告神野定市が精神障害により禁治産宣告を受けるに至ったことにより蒙った精神的苦痛に対する慰藉料額は各金一〇〇万円づつが相当である。

8  よって、被告に対し、前記各相当な慰藉料額の内金として、原告渡部は金一〇〇万円、原告神野定市は金一五〇万円その他の原告らは各金五〇万円宛およびそれぞれこれに対する不法行為の後である昭和三六年九月二〇日から完済まで民事法定利率年五分の遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  第1項の事実は認める。

2  第2項の事実は認める。

3  第3項の事実中、原告渡部が武藤商事合資会社から金員を借り受けその担保の目的で原告主張の契約を締結し、原告主張の書類を同会社に交付したことは認める。その他の事実は知らない。

4  第4項の事実は認める。

5  第5項の事実は認める。

6  第6項の事実は否認する。

7  第7項の事実は知らない。慰藉料額は争う。

8  被告は、本件土地建物に根抵当権設定登記を受けるにつき、原告渡部の意思について少くとも最少限度の調査をしたし、訴外手塚からは原告渡部が根抵当権の設定を明示的に承諾している旨を伝えられた。したがって被告が、真実渡部から根抵当権の設定を受けたと信じてその実行をしたことにつき、被告には過失がなかった。

また、根抵当権設定の無効が判決によって確定されれば、被告は競売による売得金を競落人に返還し、根抵当権設定登記は抹消されることになるのであるから、被告が根抵当権の実行をしたことは原告らの権利を侵害するものではない。

三  抗弁

1  原告らは、昭和三一年七月競売手続開始決定がなされたことおよび昭和三六年六月二七日および同年九月一九日競落許可決定がなされたことをいずれもその当時知ったにもかかわらず、本訴提起に至るまで損害賠償の請求をしなかったのであるから、右債権は遅くも昭和三九年九月一九日の経過とともに時効によって消滅した。

2  原告らは、昭和三〇年早々にその代理人内水主一弁護士に依頼して競売事件の記録を閲覧し、競売手続に対し異議その他の不服申立のあることを知悉していながら何らの不服申立の手段を構ずることなく、原告渡部が故意に居所をくらます等の方法によって競売手続を不当に遅延せしめたばかりでなく、競落許可決定に対しても不服の申立をせず、これを放置し、競落人から土地建物明渡の訴が提起されるに及んではじめて競売の無効を主張しはじめたものである。このように、原告らは自己の権利を長期間放棄していたのであるから、権利失効の原則により、また信義則違背により競売の無効を主張することができないものである。

3  かりに、被告に損害賠償義務があるとしても、原告渡部は、訴外武藤商事合資会社がいわゆる街の金融業者であることを知っていたのであるから、同会社との間の登記手続を済ませた後、登記簿にあたってその内容を確認すべきであったのに、これをしなかったため訴外手塚努が身を隠すのを容易にし、問題の解決を長びかせる結果となったのである。

また、競売手続が開始された後においても、原告渡部は、被告に対し、原告主張の書面による申入れをしたのみで、競売手続の停止の申立等の手続をとることなく漫然と六年六か月にわたってこれを放置していたため、遂に競落にまで至ったのである。

もし、原告渡部が、右のように事態を放置することなく、当然とるべき措置をとっていれば、原告らの損害は軽微であったはずである。よって被告が賠償すべき損害額の算定にあたっては原告らの右の過失が斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する答弁

抗弁事実はすべて否認する。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  本件土地建物は、昭和二八年一〇月二六日以降原告渡部の所有であること、原告神野定市は、同年一一月一日以降原告渡部から本件建物を賃借してこれに居住していること、本件土地建物につき、昭和二九年四月五日被告を債権者、訴外武藤商事合資会社を債務者とし、債権元本極度額を二〇〇万円とする根抵当権設定登記がなされたこと、本件土地建物につき、被告の申立により、昭和二九年一二月二四日右根抵当権に基づく競売手続開始決定がなされ、昭和三六年六月二七日本件土地につき訴外松橋ミツに対し、同年九月一九日本件建物につき訴外小尾寿雄に対し、それぞれ競落許可決定がなされたこと、右小尾は、昭和三七年一一月一日原告らを相手として本件建物明渡の訴を提起し、次いで、原告渡部は、右松橋、小尾の両名を相手として、右競売の無効を理由として本件土地建物の所有権確認の訴を提起し、被告平和相互銀行は、後者の訴訟に松橋、小尾の補助参加人として参加したこと、両事件は併合審理された結果、原告渡部側が全面的に勝訴したこと、右判決に対する控訴、上告はともに棄却され、右判決は、昭和四四年一〇月二八日確定したことは当事者間に争がない。

≪証拠省略≫によれば、原告渡部は、昭和二九年三月八日頃前記武藤商事合資会社から本件土地建物を譲渡担保として金二万円を借り受け、ついで同月二一日頃同会社からさらに金一万円を借り受けたこと、ところが、同会社の代表者であった訴外手塚努(当時多田羅努)は、右譲渡担保契約に基づく登記をするためと称して原告渡部から預った本件土地建物の権利証および原告渡部の印鑑証明書ならびに原告渡部の印鑑を冒用して作成した委任状と被告宛の根抵当権設定契約書を原告渡部に無断で使用し、原告渡部の代理人として被告との間で前記根抵当権設定契約を締結したこと、被告はその際原告渡部が右根抵当権設定を承諾しているかどうかについて直接原告渡部に当って確かめることをしなかったこと、原告渡部は、本件土地建物に対する競売手続が開始された後である昭和三〇年七月二一日付の書面をもって被告に対し抵当権の実行を中止するよう申し入れた(この事実は当事者間に争いがない)が、被告は競売手続をそのまま維持し、その結果前記競落許可決定にまで至ったことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

ところで、債務者以外の第三者から抵当権の設定を受けるにあたっては、担保提供者の真正な印鑑が押捺された書類が整っていても、必ずしもその承諾が得られているとは限らないし、債務者が担保提供者の承諾を得ていないのに得たと称する事例がままあることは周知のことであるから、債権者は、担保提供者の意思の確認には格別の配慮をし、いやしくも、抵当権設定についてその承諾が得られていないのに、抵当権実行の手続をして担保提供者らに損害を与えることのないように留意する義務があるといわなければならない。しかるに右に認定した事実によると、原告渡部においては、本件土地建物につき根抵当権の設定を承諾したことがなく、被告は、所有者である原告渡部の意思を確かめないで代理人との間で締結した根抵当権設定契約を有効であるとし、これに基づいてその実行を申し立て、かつ競売手続開始後原告渡部からその中止の申入れを受けたのにそのまま手続を維持した結果、右手続は競落にまで至ったのであるから、競売の申立をし、かつその手続を進行させたことにつき被告に過失があったというべきである。したがって、被告は、右競売手続の開始および進行によって原告らが蒙った損害を賠償しなければならない。

二  そこで、原告らの蒙った損害について検討する。

≪証拠省略≫によれば、原告渡部は、昭和二九年六月頃、本件土地建物につき前記根抵当権設定登記がなされていることを知ったが、その頃前記武藤商事合資会社は既に営業を停止し、代表者であった手塚はその行方をくらましていたので、右登記がなされるに至った経緯を知るために義兄である原告神野定市と共に右手塚の行方を探す一方、同年八月二五日には同人を私文書偽造等により告訴したこと、そして、前述のように同年一二月二四日本件土地建物につき競売開始決定がなされたので、原告渡部は、翌三〇年七月頃、右競売手続の執行停止について弁護士内水主一に相談し、同弁護士に依頼して競売記録を閲覧し、他方被告に対しては前述のように書面をもって競売の中止を申し入れたこと、しかし、手塚の所在を容易につきとめることができなかったので、その探索は原告神野定市にまかせて昭和三一年頃から昭和三六年頃までの間は田舎に引きこもっていたところ、前述のように本件土地建物に対する競落許可決定がなされ、ついで競落人から建物明渡の訴が提起されたので、原告渡部側からも所有権確認の訴を提起し、その頃ようやく所在があきらかになった前記手塚を証人に申請するなどして抗争した結果、右競売の無効を理由として本件土地建物の所有権が原告渡部に属することの確認判決を得たことが認められ、右認定を左右する証拠はない。右の経緯に徴すれば、原告渡部は、被告の競売申立および追行に対し、本件土地建物に対する所有権を確保するために、長期間にわたり種々の対策を講じ、奔走することを余儀なくされ、このため判決確定に至るまでの間少なからぬ心労を負わされたことがあきらかであり、この精神的苦痛は金銭をもって慰藉されるに値するが、その金銭を算定するに当っては、上述の諸事情のほかに、原告渡部が競売手続の進行に対し、異議等の方法によって早期に問題を解決する途をとらなかったために落着に至るまで長期間を要したことをも斟酌すべきであり、結局被告が原告渡部に支払うべき慰藉料額は金二〇万円が相当であると認める。

つぎに、≪証拠省略≫によれば、原告神野定市は、昭和四二年六月頃から精神に異状をきたし、昭和四三年六月以降精神病者として入院加療を受けていること、そして、昭和四四年二月五日禁治産宣告を受けたこと、同人が発病した直接の原因は脳動脈硬化症および脳出血後遺症でることが認められる。そして、≪証拠省略≫によれば、同人は発病前前記訴訟の成り行きをいたく懸念していたことが窺われるが、そのことが発病の原因をなしたものと断定するに足りる証拠は存しない。かりにそのことが発病に対して何等かの影響を与えたとしても、同人は、前記根抵当権設定前である昭和二八年一一月一日以降原告渡部から本件建物を賃借居住していた(このことは当事者間に争いがない)のであり、かつ、この賃貸借の立証はさして困難であったとは思われないから、競落人からの明渡請求に対しては、右の賃借権を主張立証することによって比較的容易に勝訴することができ、したがって敗訴して本件建物から立ちのくこととなる危険はさほどなかったというべきであり、かかる場合においては、明渡の訴を提起されたことによる精神的な負担は必ずしも重大であったとはいえないから、被告の申立による競売手続の実施と原告神野定市の発病との間には相当因果関係がなかったといわなければならない。そうすると、その間の因果関係の存在を前提とする原告渡部を除く各原告らの請求は爾余の点について判断するまでもなく失当であることがあきらかである。

三  そこで被告の抗弁について判断する。

1  まず、消滅時効の主張については、原告らは、本件土地建物の競落人らを相手として提起した前記所有権確認訴訟の結果をまたなければ、被告がなした競売の申立および進行が違法であったかどうかを確知することができなかったというべきであるから、原告らが右による損害を知ったのは早くても右訴訟の第一審判決がなされた昭和四一年四月二七日であったといわなければならない。そして、原告らの本訴提起の日が昭和四四年三月七日であることは記録によってあきらかであるから、結局、原告らが損害を知ってから本訴提起までに三年間を経過したということはできない。したがって、被告の消滅時効の抗弁は失当である。

2  つぎに、被告らの権利失効および信義則違背の主張については、前述したように、原告らは前記競売手続の進行については、何等の処置も講じなかったのではなく、最善ではないにしても或る程度の対策を考慮し実行したのであるから、原告らが競売手続に対し異議等の申立をしなかったことから直ちに競売の無効を主張することができなくなったということはできず、被告の右主張は採用できない。

3  過失相殺の主張については、訴外武藤商事合資会社がいわゆる街の金融業者であるからといって、同会社と譲渡担保契約を締結した直後に登記簿を調査すべきであったということはできないが、その他の点については、前述のとおり、損害額の算定にあたり、原告渡部の責に帰すべき事情を斟酌した。

四  そうすると、原告渡部の請求は、金二〇万円およびこれに対する本件不法行為が終了した後である昭和三六年九月二〇日から完済に至るまで民事法定利率年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるがその余は失当であり、原告神野定市、同神野フク、同神野平喜、同神野立身、同神野奉臣、同島崎美重子の各請求はいずれも失当である。

よって原告らの請求のうち、原告渡部の請求を右の限度で認容してその余をすべて棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 橘勝治)

〈以下省略〉

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